土器撮影における主光線の位置 (寿福 滋)
 
 主光線は、図面の複写など均一なライティングが必要な場合を除き、立体物の被写体では常に考慮しなければならない。完形土器の撮影で、影を消すあまり、左右均等なライティングの為、土器の立体感や質感が失われているものを多く見かける。
 話は変わるが、仏像の撮影では主光線をどこに持ってくるかによって、仏像の表情が違って見える。ひいては、その時代感され左右される。
 ここに掲載した土器は、滋賀県守山市下長遺跡より出土した、庄内期の甕である。カメラは固定して、主光線のみ、左右入れ替え撮影してみた。右上がりの「叩き」のため主光線を右にした場合、叩き目が消えてしまっている。逆に主光線を左から当てた場合、叩き目がはっきりと確認できる。


                  
        1.主光線を右より当てる                                 2.主光線を左から当てる

 このようにライトの位置によって土器の表情が変わってくる。しかし、多量の土器の連続撮影をする場合いちいち主光線を左右入れ換えてもいられない。又、報告書の同一ページの中で主光線がバラバラでは統一感がなく、見た目も悪い。畿内弥生式土器で甕の叩き目を見ると第W様式では叩き目が左上がり、第X様式では右上がりの傾向が見られる。このことから第W様式の甕は右からの主光線、第X様式では左からの主光線が、叩き目の質感描写としては、有利ではないか。
 このように主光線の位置を最初から片一方に固定しないで報告書のレイアウトを考えつつ、右から当てるグループ、左から当てるグループを大別し、段取り良く撮影して行きたいと思う。
 今回撮影に用いた甕は、現在多数出土している土器のほんの一例である。他の土器でもその土器に適切なライティングがあるはずである。のみならず、その地域、その時代の特徴を知り、それらに応じたライティングを考えて行きたいと思う。
 末筆ながら快く土器の撮影と掲載を許可していただいた守山市教育委員会に御礼申し上げます。

                                          (寿福書房 じゅふく しげる)